2008年6月12日

番組内容への期待権(最判H20.6.12)

 取材を受けた特集番組が政治的圧力で改変されたとして民間団体がTV局と制作会社の2社に損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で,最高裁第1小法廷は,2社に総額200万円の支払いを命じた二審東京高裁判決を破棄しました。本事件は,取材を受けた側の番組内容への期待が,法的に保護すべき権利に当たるかが主な争点でしたが,同小法廷は「原則として法的保護の対象にはならない」との判断を示しました。

 本事件の一,二審とも,番組の放送内容について取材対象者が期待を抱くやむを得ない状況があるとき,この期待は期待権として法的保護に値するとの判断の下,原告側の期待権が侵害されたことを認めていました。

 これに対し,同小法廷は,ごく例外的な場合を除いて,番組内容への期待権は認められないとしました。そして,この期待権が認められる例外的な場合に関して,事実と異なる説明で取材に応じさせ,それにより取材先に大きな負担を掛けたような場合にのみ,成立の余地があるとした上で,さらに,こうした条件を満たしても,説明と違う内容になるやむを得ない事情があったなら,権利侵害には当たらないとしました。結局,このような判断基準によれば,今回のケースでは,原告側に特別の負担は生じず,取材時の説明にも問題はなかったとして,期待権の成立を認めませんでした。

 ここで問題になっている「期待権」とは,一般的には,将来一定の事実が発生すれば法律上の利益を受けられる期待を持つことができる権利を指し,それが侵害されれば不法行為(民法709条)として侵害者に対する損害賠償請求の問題に成り得るものです。もっとも,単なる思惑に反したからといって,損害賠償の問題になったのでは社会は成り立ちませんから,それは法的保護の対象になるものでなければならないのですが,それでは何が法的保護に値する期待であるかは,格別法令に記載されている訳ではありませんから,なかなか難しい問題となります。結局,法律によって保護されるべき期待であるか否かは,諸人権の価値や社会の諸事情等を総合考慮して,期待権の内容や事案によって個々具体的に判断するしかないでしょう。

 今回問題になった番組内容への「期待権」についても,取材対象者の期待が果たして法的保護に値するのか否かが判断されることになるのですが,他方で,それを容易に認めてしまえば,番組を制作し放映する側の編集の自由への制約となるので,憲法が保障する表現の自由との衝突も問題となって来ます。さらには,表現の自由があると言っても,公共の電波を利用できる,そして民主主義にとって公的な役割を担うマスメディアには,その性格から認められる制約があるのではないかとの議論も生じるでしょう。

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